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タコノアシ群落に与える影響評価 - 背景と目的

 環境庁のレッドリスト絶滅危惧U種に掲載されているユキノシタ科タコノアシ属タコノアシPenthorum chinense Pursh)は河川敷や休耕田などの湿地に生育する多年草で、以前はどこにでも普通に見られる植物であった。タコノアシの生育環境は、撹乱によって新たに形成されたオープンな湿地であるとされている。そのような湿地は時間の経過とともにヨシやガマ類あるいはヤナギ類のより競争力の強い植物が占有するため、タコノアシが同じ場所に継続的に生育するためには、洪水などによる定期的な撹乱が重要であるとされている。しかし、今日では多くの河川は治水事業によって洪水が起こりにくくなり、タコノアシの生育に適するオープンな湿地が形成される機会は減少している。
 タコノアシの種子は直径0.5mm以下と微小で、広い範囲に分散されると考えられる。また、種子は土壌シードバンクを形成することがわかっている。したがって、洪水の頻度が少なくなった河川環境においても、かってタコノアシが生育していた湿地の人為的な撹乱や、湿地を造成してタコノアシが生育された湿地の土壌をまきだせば、その再生や保全が可能であることが明らかになっている。
 しかし、これまでの研究では、タコノアシ群落の復元のみに着目されており、遺伝的多様性の重要性が考慮されていなかった。野生生物の長期的な保全のためには、遺伝的多型が重要であることが示唆されている。特に、タコノアシのような植物はメタ個体群的動態を示し、遺伝的多様性の維持の仕組みが不明である。そのため、タコノアシ群落において、遺伝的多様性がどのように維持されるか、その減少が頻繁にどのように影響するか、またそれが集団の絶滅につながるかどうかを検討する必要がある。
 そこで、本研究では、揖斐川中流部での河道掘削工事により出現したタコノアシのアイソザイム分析をおこない遺伝的多様性を明らかにすることを目的とした。

レッドリスト ・・・ 絶滅のおそれのある種のリスト
絶滅危惧U種 ・・・ 100年後に10%以上の確率で絶滅する可能性がある種
タコノアシ ・・・ 動植物図鑑を参照
河川敷 ・・・ 河道と堤防をあわせた区域。河川法によって定められ、河川の一部とみなされ、増水時に達する川幅の最大限をとっている。
多年草 ・・・ 草本植物で、根が完全に枯れずに残り、毎年茎や葉を伸ばすもの。
土壌シードバンク ・・・ 土中で生きている種子の集団
遺伝的多様性 ・・・ 生物は、同じ種、同じ個体群でも、個体ごとの遺伝子は少しずつ異なっており、その遺伝子の豊富さを示す。遺伝子の多様度
メタ個体群 ・・・ 階層構造をもつ個体群。隔離された集団間で種の相互関係が遺伝子流動によって維持されている個体群の集まり
遺伝的多型 ・・・ DNA配列の微妙な違い 遺伝的な個体差
アイソザイム分析 ・・・ 同一種内の酵素の変異を電気泳動による移動距離のちがいによって個体ごとの酵素の変異を調べる